建設業の見積もりの算出方法とその出し方
今回は誰もが気になる「お金」の話です。
日常的な買い物であれば、買いたいモノには、値段がついていて、それと同じ金額を支払えば、そのモノを手に入れることができます。では、高額なものになるとどうなるでしょうか。ここでお話しする「建築物」はもちろん、自動車とか海外旅行とかは、普通は「見積もり」をして、その金額の概算を知ることになると思います。
しかし、建設業の場合は、見積もりをするにしても、自動車や海外旅行の場合とは少し違った特殊性があります。それでは、見ていきましょう。
たとえばあなたが、「ジュースを買いたい!」と思ったとします。自動販売機、コンビニやスーパーマーケットなど、様々な選択肢があります。すぐにでも飲みたいのなら自動販売機、他に買い物があるならコンビニ、夕食の食材を買うついでならスーパーマーケット、安く大量に買いたいのならディスカウントショップなどなど・・・。そんな風に使い分けされていると思います。
それぞれに多少の価格差はありますが、その相場は大体どこも同じです。おしゃれなバーでも行かない限り、同じメーカーの同一商品であれば、その価格差は僅かです。そして、日本全国どこへ行っても同じ価格帯で購入できるはずです。
飲料や食料、スマホやパソコン、さらに自動車でも同じ車種であればどのメーカーでもその金額は、同じような価格帯で購入できると思います。その理由は、これら製造物は工場で生産管理をしており、在庫調整などを実施しながら原価管理を行っているからです。年間をとおして、原価(価格)に対して、大きな差を生じさせないようにしているのです。
一方で、野菜や魚介類など、保存ができないような品目は、季節や年間を通して、その価格は大きく変動します。あたりまえですが、需要に対して供給が多ければ安くなり、その逆に需要に対して供給が追いつかなければその価格は高騰します。一般にいわれる市場原理そのものです。実は、建設業の単価は、この野菜や魚介類のような価格変動があったりします。
建設産業においても、ハウスメーカーであれば、ある程度の『相場』があります。
それは、軽量鉄骨住宅やツーバイフォー住宅のように、建物本体工事のうち、工場制作の比率を高めて、現場作業は、工場で作成した部品を組み立てるだけ、としている場合です。平面的なプランは限定されますが、工場制作が多くを占めるために、工期の遅れの原因となる「天候」に影響されずに、現場作業は最小限とすることができるため、納期内に完成させることができます。
このような建物であれば、建設費や人件費には大きな変動はなく、あとはオプションの有無により価格が変動する、程度のものになります。
一方で、建設物が一般的なものでなく、それも大型になると、その造り方はハウスメーカーのようにはいきません。
例えば、「東京スカイツリー」。これは、世界に一つしか存在しないものです。他に「東京タワー」など、同じ目的を持った「電波塔」は各所にありますが、いずれの建物もその大きさ・仕様・形はひとつひとつ異なります。
また、「あべのハルカス」という日本一高いビルがあります。第二位は、「横浜ランドマークタワー」です。
これらの建物の目的は、複合オフィスビルです。どちらのビルも、下層階はショッピングエリアとレストランゾーンであり、中層階にオフィスを配置して、高層階にはホテルがあります。そして最上階付近には展望台があります。
建物目的は同じで、階構成も同じですが、このふたつの建築物はまったく違うものに見えます。あたりまえですが、ビルの見た目は違いますし、中の様子も違います。ロビーに敷かれているカーペットの質も色も形も違いますし、照明だって違います。エレベーターホールの豪華さも、吹抜け空間の作り方、各階のフロアの印象も大きく異なります。
つまり、「同じ目的」の建物であっても、それを構成するために必要な材料は、大幅に異なっているのです。住宅や一部の共同住宅などは一定の画一化された規格のもとで、使用される材料も少量で、仕様も大きくは異ならないために、一定程度の生産調整は可能です。
一方で、公共性を併せ持った建築物は、シンボル性も有するため大抵はひとつひとつの形態は唯一無二のものとなるのが通常なのです。身体の採寸からはじめるオーダーメイドのスーツのようなものです。基本的な生地の金額は想定できますが、その縫製過程や裏地の種類やボタンなどによって、その金額は大きく異なります。
建設の見積もりはオーダーメイドスーツ、そう考えると、少しはわかり易くなるかも知れません。
では、建設物の見積もりはどのような計算で成り立っているのでしょうか?
もう一度製造物を・・・たとえば普段食べられているチョコレート菓子の経費(コスト)をイメージしてみましょう。
・チョコレートなどの材料費
・工場で働く人の人件費
・生産した菓子を保管する倉庫
・菓子を輸送するための運送費
・販売するための宣伝費
などがコストに該当します。
では建造物はどうなるでしょうか? 建造物はその場にあるため、倉庫費や運送費などが発生しません。
宣伝もゼネコンではなく発注主が行うため、宣伝費も発生しません。
つまり、建造物では建物を立てるための(木材やら鉄筋やらカーペットやら・・・)の「材料費」と、建設現場で働く人の「人件費」の二つが主なコストとなっています。
ですが、製造物と異なり、建造物はひとつひとつが唯一無二の存在です。仮に同じ目的で、似たような規模の建築物であったとしても、工事費は全く異なってきます。
そのため、建設業では見積もり業務(積算と言います)が重要な業務となる訳です。
ひとつひとつの建設物が唯一のもの、ということはつまり、それぞれの建物で使用する材料が異なってくる、ということにほかなりません。
設計図書(工事をするための図面)を元に、個別な建物ごとに必要な材料を拾い出す必要が出てくるわけですが(数量計算といいます)、図面に記載された部分は当然として、場合によっては図面に記されていない部分についても、想像力を働かせて数量を拾い出す知識が必要となります。
では、材料の価格はどのように求めればよいのでしょうか?
建築では、部屋の内装材や外部の装飾品などその建物を構成する材料には、数百種類の材料を使用します。
それらの材料の中には一般的なホームセンターで容易にいつでも入手できるものもあれば、特別にその建物のためだけに工場で造ったりしなければならないものもあったりします。
一般的な建設材料の価格は、物価変動にあわせた刊行物(建設物価、積算資料など)が発刊されており、一般の私たちでも建設材料の相場を知ることができます。
また、労務単価(人件費)についてもこれらの刊行物に記載されており、1日あたりの「とび職人の単価」や「鉄筋職人の単価」、「大工の単価」など、職種ごとに掲載されています。
ほかにも、公共工事を設計する場合に使用される労務単価については国土交通省で公表しています。この金額は上記の刊行物や入札状況などを考慮して決定しており、国交省のホームページでも確認することが可能です。 http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000217.html
建設物に使用する各材料を造り上げる人件費については、これら公表されている単価をもとにして、建築物のそれぞれの部位ごとに、いったい何人の職人が必要なのかを積み上げていきます。
ただし、このように積み上げて費用を算出できるのは、これら刊行物に公表されている材料や仕様に合致した場合のみ、となります。
合致しない特殊な材料や、その建造物のために特注が必要な仕様の場合は素材を作っている各種メーカーから見積もりを請求し、その上で試算する必要があります。もちろん、このような場合は一般的な材料よりは高価となる場合が多く、特注品を多く使用する建築物は自然と工事費自体も高額になっていきます。
なお、公表されている建築単価は毎月見直しがなされています。
特に鉄筋工や型枠工などに代表される労務費は需要と供給のバランスによって変化が大きく、職人さんが不足すれば人件費が上がり、余ると下がります。
時期によって鉄筋工が忙しかったり大工さんが忙しかったりとばらつきがあり、また地域性や景気動向にも影響されるものですので、たとえば数年前に見積もりをした工事費が今の水準に合致していない、という事態も起こりえます。
最近は全国的に建設需要が高く、人件費は高騰傾向にあるため、数年前の金額では工事を引き受けてくれない、あるいは金額を上げても工事を遂行するに十分な職人さんが確保できない・・・そのようなことも多発しています。
※補足※
建築物の場合、公表された単価をそのまま使用できるのは躯体工事(柱・梁・床などの構造体)までとなります。カーテンウォール工事や建具工事、内装工事は建物ごとに仕様や形状が異なるため、各メーカーからの見積書を元に工事費を算出する必要がありますが、躯体工事までの費用は一般的に工事費全体の3~4割程度となるため、工事費の半分以上が見積書による工事費算出が必要となります。
これまでのお話をまとめると、次のような理由によります。
1)一般的に市場に出回っている材料を使用する比率が少ないため、その費用を算出するには特定の製作会社による個別の見積もりが必要となり、結果として特殊性を有する部分の建設単価の概要が見えづらい。
2)現場での製作工事や工場加工品であっても、工事費においてその現場における労務単価が占める割合が多い。そのために、工事時期や地域性、物件特性などにより必要なる作業者が異なるため、適正な人員を工期の全体において確実に確保できるか否かが見えづらい。
とはいえ、工事を予定通りに、金額どおりに遂行するには、請負金額の中で利益を確保しつつ、適正な材料を用い、さらに十分な人員を確保することが必要となります。
建設における見積もり業務、すなわち積算業務は現場運営をスムーズに行うために必須の業務といえるでしょう。
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